突然起こった歯の痛みや違和感で歯科医院を受診すると「根っこが折れて（歯根破折）いますので抜歯しましょう」、と説明される場合があります。
ですが、歯は生え変わることありません。その一本一本を大事にするために、十分な説明を受け、よく考えてから治療方法を選択してください。

歯根破折の判定は難しい

歯根破折とは歯根が何らかの原因により折れてしまうことです。歯根は骨の中に埋まっており、その状態を直接目で確認することができません。レントゲンで明確になることは多くなく、歯根破折かどうかグレーゾーンの判断をしなければならない場合が多くなります。

もし、レントゲンに歯根が真っ二つに割れている画像が映し出されているのなら、はっきりと診断できます。 しかし、割れた直後やひびの場所・程度によっては、レントゲンに異常が認められないことがしばしばあります。

また歯根の周りに膿が溜まっている場合にも、それが歯根破折によるものなのか、根尖病巣（根っこの先に膿がたまる病気）によるものなのか、紛らわしいため判別は難しいです。

歯根破折の原因

まず、歯根破折のわかりやすい原因としては、ぶつけた時などの外的衝撃が挙げられます。また、硬い物を噛んだことによる歯根破折もあります。日常生活の中でも、特に咬む力が強く、歯ぎしりや食いしばりをしている方は、歯根破折のリスクが高くなる傾向があります。 過去に特別な理由がないにもかかわらず歯根破折の経験がある方は、他の部位でも同様の状態が起こりやすい傾向が見られます。

また、神経を取り除いた歯は、歯根破折のリスクが上がります。

歯根破折の症状

• 突然の激しい歯の痛み:
  歯根が折れると、神経や血管が影響を受けるため、急激な歯の痛みが発生することがあります。
• 歯の感覚の変化:
  歯根破折によって神経が損傷を受けると、歯の感覚に変化が現れることがあります。例えば、歯がしみる、痛みや圧力を感じない、または感覚が鈍くなることがあります。
• 腫れや歯茎の変色:
  歯根破折によって歯の根の周囲組織に炎症が生じることがあり、腫れや歯茎の変色（紅色化）が見られることがあります。
• 歯が揺れる:
  歯根の一部が折れてしまうと、歯が不安定になり、噛むときや触れるときに歯が揺れる感覚生じる事があります。

場合よっては、無症状にもかかわらずレントゲンを撮って初めて発覚する場合もあります。

抜歯かどうか迷ったら

歯根が明らかに真っ二つに折れている場合や、隣接する歯に悪影響が予想される場合は、抜歯が適切な選択肢です。ただし、歯根破折の診断は困難な場合もありますので、抜歯を即決するのではなく、まずは投薬や根管治療などによって症状の改善を待つことが、歯の健康にとって良い選択だと言えます。

	メリット	デメリット
抜歯	確実に原因が除去でき、症状の再発は起こらない。	貴重な歯を失う。
保存療法・経過観察	症状がなくなれば貴重な歯を失わずに済む。 高額なインプラント治療や問題のない両隣の歯を削るブリッジ治療が避けられる。	症状の再発の可能性が残る。 結局抜歯になることがある。 治療回数が増える。

当院の考える治療

歯根破折は診断やその後の進行の予測が困難であり、歯科医師としても治療方法の選択に悩むことがあります。保存治療を行っても、結局数年後には抜歯が必要になることもあります。 そのため、抜歯か保存かを決定する際には、破折の可能性や保存治療によって生じる可能性のある問題、抜歯後の治療方法などを説明します。
「抜歯を極力避けて、できるだけ歯を持たせたいのか」「あまり長持ちしないなら、抜歯してしまいたいのか」など、患者様の考えや意見も考慮して治療方針を決めていきます。

歯根破折の疑いがあるからといって、抜歯を第一選択とせず、まずは投薬や根管治療などで、症状が改善するかどうか、見極めを待つ事は歯にとって大切なことです。 最終的な治療となる抜歯はできるだけ避け、結果的に抜歯に至った場合でも、延期することが望ましいと考えています。

当院では、歯根破折の疑いがあるまま被せ物などの治療を進め、その後の定期的な検診で経過を観察して、何年も無症状のまま経過している方もいらっしゃいます。
またレントゲンよりも歯根破折の度合いや可能性がわかりやすいCT撮影といった方法もあり、当院では必要な場合、九大病院にCT撮影を依頼しております。

いずれにせよ、歯は生え変わることありませんので、その一本一本を大事にしてください。